靴下はスーツスタイルをかっこよく、美しくつくる上で大切なアイテムです。
それは、足を保護する、保温する、通気性を良くするなどの機能以上に重要な役割を持ちます。
スーツだけでなく、どのような服を着ようとも靴下というものは、実はとても重要なアイテムです。
しかし、靴下なんてものはたかが消耗品と捉え、どうせ見えないからとテキトウなものを選んでいる人が多いのも事実です。
スーツにおいて、靴下は全体のスタイルを完成させる上で大切で、スラックスから靴にかけての程よいリズム(繋がりやコントラスト)を作ります。
それは、スーツの着こなし全体の見え方にも大きく影響します。
それに、靴下が見える機会は意外と多いです。
座ったときにスラックスが上がることで見えます。
歩いていて、スラックスの裾がなびくと同時に靴下は目に留まります。
靴を脱いだ際なんかは、当然靴下が露出します。
そんなちらりと覗く一瞬に、ザンネンな印象を残さぬよう僕たちにできることを考えていきましょう。
合わせる色はスラックス(スーツ)と同色が最も基本
スーツに合わせる靴下の色は、スラックス(スーツ)と同色が基本的な合わせ方となります。
例えば、紺(ネイビー)のスーツに合わせる靴下は、紺(ネイビー)の靴下が基本的です。
灰(グレー)のスーツには灰の靴下を。茶(ブラウン)のスーツには、茶の靴下を合わせます。
夏にやや黄みがかったアイボリーのリネンスーツが着たいと思ったとき、合わせる靴下も同色が基本になります。
また、「スーツスタイルの靴下は、靴の色に合わせるのが基本」という記述を見かけることがあります。
おかしくはありませんし、定番の合わせですが、基本はあくまでもスラックス(スーツ)に合わせます。
その方が、靴に合わせたときよりも脚が長く見えるため、スタイルが良く見えるという効果もあります。
ビジネスシーンにおいて、紺(ネイビー)、灰(グレー)、黒(ブラック)の靴下を揃えておけば良いと言われることがありますが、それはビジネスシーンでそういった色のスーツ(スラックス)がよく着用されるからです。(歴史的な背景もありますが、今回は省きます)
素材はウール100%、もしくはコットン100%を試してほしい
スーツに合わせる靴下は、ウールもしくはコットン100%のものをまずは試してほしいです。
ウールは、高番手と言われる細い糸が使われているものであれば、夏でも使用することが可能です。また、高番手のウールソックスは、非常にクラシックで正統性の高いものでもあります。
ただ、現在でそういった靴下は入手しづらく、価格も気軽に買えるものでない場合もあります。
そのため、まずは冬用であればウール100%、夏用であればコットン100%の天然繊維の靴下の使用がおすすめです。(春、秋は気温と相談しながらどちらかを使用してください)
天然繊維をおすすめする理由は、見た目もありますが、機能面によるところも大きいです。3つほどメリットを紹介します。
臭いの問題
1つは、臭いの軽減です。
夜の新幹線に乗ると、靴を脱ぎ、非常にリラックスして乗車しているサラリーマンを見かけることがあります。
靴を脱いでいるため、強烈な臭いが僕の鼻を刺激することがあります。
出張でお疲れなのはわかりますが、やはり臭いもエチケットであり、ファッションの一部なのです。
そういった方の靴下を見ると、ほとんどが化繊、または化繊混の靴下を履いていることがわかります。
化繊は、洗っても皮脂などが残りやすいことが多く、通気性も悪く雑菌の繁殖に繋がります。そのため、臭いが発生しやすいです。
天然繊維であれば、通気性がよく、臭いの軽減に繋がります。
汗の問題
1つめの内容と少し重複しますが、化繊のものは通気性があまり良くないです。
ただでさえ足は汗のかきやすい箇所なのに、通気性まで奪われては余計に汗がでてしまいます。そして、その汗が乾きにくいという悪循環です。
天然繊維は、そういった面で優れており、臭いや汗の発生が幾分か改善されるはずです。
あそび(隙間)
もう1つ、天然繊維のメリットを記しておきます。僕はこれが大きな理由で化繊の靴下を履きません。
それは、靴下の中で足があそぶといいますか、滑る感覚があるのです。靴下が足と一体でないような、そんな感覚を化繊の靴下に感じることが多いのです。
上手く伝えられないのですが、素材に限らず、サイズが合っていない靴下だとより実感しやすいと思います。ゆるゆるの靴下を履いていると、ズルズルとズレてきて足先がダボついてしまうという体験をされた方は多いのではないでしょうか。
もちろんサイズを合わせるとここまで酷いものではありませんが、若干足と靴下がズレるような感覚があります。
天然繊維であれば足と一体になる感覚が強く、こういったことが大きく改善されます。
化繊は絶対にダメ?
では、化繊が悪かと言われると一概には言い切れません。
伸縮率がよかったり、天然繊維のものより安価である場合があります。
汗をかきにくい人やコストを優先させたい人は、少し化繊混のものを選択するのも良い選択だと思います。
化繊を混ぜたものには、天然繊維と化学繊維の両方の良さを取り入れているものもあります。
例えば、こちらはHARUSAKU(ハルサク)という奈良のメーカーの靴下です。
表糸は綿100%で、裏糸に消臭糸(ポリエステル・ポリウレタン)を使用することで、通気性と消臭効果を上手く両立させています。
サイズの合った靴下を
サイズの合った靴下を選ぶということも大切です。
ワンサイズしか展開していない靴下はナンセンスです。
先ほども少し触れましたが、サイズが合っていない靴下だと足先やかかとに遊びができ、快適性を損ねてしまいストレスとなります。
靴下と靴が中で擦れて、素材に負荷がかかり余計な消耗にも繋がります。
履き口がゆるゆるであれば、靴下がずり落ちたりしてきて、すね毛が丸見えになるというスーツスタイルにおいて最も避けたい状態にもなりかねません。
そのため、しっかりと自分の足のサイズと合った靴下を選ぶようにします。
もし、かかとがフィットする靴下を見つけられればさらに良いです。
日本人はかかとが小さい人が多く、それにフィットする靴下が少ないのが現状です。
ただ、分かりにくい部分で大きく気になるところではないと思うので、まずは足のサイズだけでも合ったものにするのがおすすめです。
靴下がずり落ちないための対策
スーツスタイルで、すね毛(皮膚)が丸見えなのは最悪です。
たまに、電車などで座っていると靴下がずり落ち、スラックスと靴下の間からスネが丸見えになっている人を見かけますよね。
そうならないために対策を考えましょう。
ソックタッチ
女子中高生の味方、ソックタッチです。
スティックのりのようなもので、アクリル系の粘着剤です。
これを塗ることで靴下のズレを防ぎます。
おじさんの僕たちでも使えますが、あまり推奨はしません。
特に営業など、歩き回るお仕事の場合、粘着が取れてきてしまうことがあります。
おじさんの我々がコソコソと塗り直しをしないといけないという点で、ややスマートさに欠けます。
しかし、靴下がずり落ちているよりは幾分かマシな対策です。
ソックスガーター
ソックスガーターなるものを使用して、ずり落ちを防ぐ方法もあります。
ソックスガーターは今使っている靴下などにも使えるので、コスパという点でおすすめです。
より質を求める場合、サスペンダー(ブレーシズ)で有名なアルバートサーストン社のものもあります。
昔の紳士もソックスガーターを使用していました。
昔は、アクセサリーとしての役割もあり、色や柄、素材が豊富で紳士達の密かな嗜みになっていました。
スーツを着る際に、ひと手間増えることが煩わしく感じる人もいるかもしれません。
その辺りが気にならないのであれば有効な対策だと思います。
ホーズソックス
ホーズソックスという、ふくらはぎまで包むような長い靴下があります。
膝下まで長さがあるのでずり落ちるということはほとんどありません。
また、座った際などスラックスがずり上がったとしても肌が露出することはありません。
馴染みのない方も多いかもしれませんが、おすすめのアイテムです。
入手しやすいのは、日本製のハリソンのホーズです。
公式サイトだとたくさん種類もあります。
入手のしやすさ、品質、色のバリエーション、価格など総合的に見ると一番バランスの良いメーカーかと思います。
スラックスに引っかかる?
ホーズは、長さがひざ下まであるため、スラックスに引っかかってしまうというデメリットを時々聞きます。
特に細すぎるスラックスを着用していた場合には起こりやすいです。
もしくは、ふくらはぎが太い方はスラックスと干渉しやすくなり、引っ掛かりを感じることがあるかもしれません。
もしこの問題がおこり、少しでもこれを解消しようと思うと、素材に気をつける必要がでてきます。
シルクのホーズであればとてもエレガントであり、引っ掛かりの問題も起こりにくいと思います。
しかし、非常に高価な場合が多く、色の展開もそうあるものではありません。入手のしづらさもネックになってきます。
もう少し気軽に試せて、入手しやすいものが良いです。
例えば、グンゼのSEEK(シーク)というシリーズのホーズです。
SEEK販売一覧ページ:https://www.gunze.jp/store/r/r5324/?brand=seek
靴下の上部(履き口付近)にキュプラを混紡しており、スラックスとの滑りを良くしています。
そうすることで引っ掛かりを軽減させます。
靴下を単なる消耗品として扱わない
ここまでスーツに合わせる靴下の基本的なことについて触れてきました。
靴下を単なる消耗品として扱わないことで、着こなしや楽しみの幅が増えます。
ですが、「靴下はスラックス(スーツ)の色に合わせる」という基本だけでは少し退屈で、個性がないと思われる人もいるかもしれません。
職種によっては、もっと自由度の高いスーツスタイルが可能な人もいると思います。
街着としてスーツやジャケットを愉しみたいという人もいるかもしれません。
僕自身、もっとスーツを目一杯愉しみたいと思っています。
そこで、もう少し靴下というものについて深堀りしていきたいと思います。
白の靴下はNG?
スーツスタイルに、白の靴下を履いてはいけないと言われることがあります。
確かに、ビジネスシーンということを考えた時には適していないことが多いと思います。
しかし、絶対にスーツと白い靴下の合わせがNGかと言われるとそんなことはありません。
例えば、アイビースタイルでは白の靴下を合わせることがあります。
紺のブレザーに、グレーのスラックス、足元にはペニーローファー、といったスタイルなどには白の靴下を合わせる人も多いです。
他にも、白や生成り、クリームといったスーツに白の靴下を合わせることがあります。
ただし、この場合は原則シルク素材です。
こういった綿のスポーツソックスを合わせてはいけません。
少々難易度が高くなるため、スーツに白の靴下をNGとしているところが多いのではないかと思います。
昔の英国紳士が白のホーズを着用していたことを考えると、とてもクラシックで正統性の高い靴下の1つであり、決してNGなわけではありません。
元々はスーツが誕生する前の17、18世紀ごろ、宮廷貴族のユニフォームだったのです。
NGがあるとすれば、ビジネススーツなどダークスーツにはちょっと合わないかもしれませんね。
これは、イギリスなどヨーロッパ圏がアメリカ大陸に進出したことがきっかで、奴隷に支給する靴下は白やベージュなど素材そのものの色を支給したためという歴史的な背景も関係していると思います。
ですが、今はそういうことが理由で白の靴下を着用していないというよりは、学生服っぽく見えるとか、ダークスーツと白のスポーツソックスでは用途も違い、違和感があって相性が悪いとか、一般的なマナーとしてとか、そういった理由が多いのではないかと思います。
そういった点を注意すれば、白の靴下はとてもかっこいいアイテムです。
本当に良い素材
序盤でウールや綿100%の素材を推奨しました。それは入手がしやすいからです。価格帯もチャレンジしやすいものが多いのも理由です。
もっと踏み込んだとき、良い素材はシルクです。
もしくは、高番手のウール(夏でも使える)や上質なコットン(シーアイランドコットンやカシミアコットン、その他)、リネンという選択肢もあります。
クラシックな柄
序盤は無地の靴下をおすすめしました。
これは素材の件と同じで、入手しやすいからです。
また、いきなりスーツに柄物の靴下を合わせようとすると、派手過ぎたり、相性が悪かったりして趣味の悪いものになってしまう可能性もあります。
柄物の靴下といっても、何でも良いわけではないのです。
柄物の中でも、クラシックで正統性の高い柄があります。
例えば、ストライプ、バーズアイ、ポルカドット、アーガイル、クロックなどです。
20世紀を代表する洒落者、ウィンザー公もストライプなどの柄物の靴下をよく着用していました。
つま先は手縫い
良い靴下は、つま先は手縫いでつけられています。なぜなら、縫い目ができないからです。
縫い目のある靴下は、足に干渉しストレスとなります。
最高の靴下は、自分の足にピッタリとフィットし、一体となり、決してストレスがあってはいけません。
スーツと靴下の色の合わせ方
スーツや靴と同色の靴下を合わせるだけでは退屈だという場合に、他の色合わせも考えてみます。
スーツと靴下を同色というのは基本ではありますが、全く同色にしてしまうと、それはそれで狙いが出過ぎていて少々野暮にも思います。
もちろん、黒タキシードなどには黒の靴下が良いです。
ビジネススーツも、あまり遊びを利かせた靴下ではダメな職種も多いでしょう。
しかし、タウンスーツ、セミスポーツスーツ、カントリースーツを想定する(要は街中や遊びでスーツを着る)場合には、若干トーンが違っていたり、柄を上手く使っているくらいの方がわざとらしくなく、スマートに見えます。
応用というわけではありませんが、靴下の色や柄を上手く使った方がスーツはよりエレガンスに成り得ると思います。
色を拾う
靴下の色合わせの中で、ネクタイなどから色を拾うという合わせ方があります。
主にネクタイやポケットチーフ、スーツの柄の一部、生地の色などから拾っていきます。
いくつかコーディネートをつくってみます。
ネクタイから色を拾う
例えば、茶のスーツにグリーンのタイを合わせた場合、タイから色を拾ってグリーンの靴下を合わせるといった具合です。
これはネクタイではなく、インナーをニットにした場合などにも使えます。
同じスーツを例にし、ネクタイではなく、緑のタートルネックをインナー使います。
そこに靴下も緑を合わせます。
ポケットチーフと色を合わせるのも良いです。
下の画像は、緑のポケットチーフに、緑の靴下を合わせています。
下の画像、左下の紳士も緑のネクタイと靴下を合わせています。
このようにスーツ以外から色を拾うというのも素敵だと思います。
スーツの柄の色を拾う
スーツの色の一部や柄から靴下の色を拾っても良いです。
例えば、スーツのエンジ色の格子から色を拾います。
一見、ネクタイと靴下の色を合わせているように見えます。もちろんそれも合わせているのですが、よく見るとスーツの生地にもエンジ色の格子があることがわかります。
他にも、下のジャケットは色々な色の糸が使われています。その中のオレンジの格子と合わせて靴下の色を合わせています。
下の画像、右の紳士もネクタイ、スーツのストライプの色と靴下の色を合わせています。
このような具合で、スーツやジャケットに使われている柄の色などから靴下を合わせるのも有効です。
スーツの生地から色を拾う
スーツの生地から色を拾うこともできます。これは拾うというよりも、スーツと親和性の高い色を使うと言う方がわかりやすいかもしれません。
例えば、下の2つのスーツを見てください。
どちらもコットンスーツですが、左はやや赤みがかったコットン、右はやや緑がかったコットンということが確認できるかと思います。
赤みがかっている方にはオレンジの靴下を、緑がかっている方にはグリーンの靴下を合わせます。
そうするとスーツの色と親和性の高く、なおかつ色を取り入れたコーディネートとなり、リズムが生まれます。
補色を使ったエレガンス
少し難易度は上がりますが、補色を使うのも非常に着こなしの幅が広がります。
補色とは、色相環の対面同士に当たる色です。
ファッションでは、イタリアに代表されるアズーロエマローネと言われる、青と橙、ネイビーとブラウンの組み合わせが有名です。
他にも、例えばネイビーとグリーンの組み合わせは、補色ではないですが、どちらにも青が含まれており、なおかつ色差があるので、相性がよく、それでいてコントラストがつきます。
同じ色じゃつまらないという場合には、こうしてコントラストを使いこなすことができれば、とても魅力的な着こなしに昇華します。
昔の紳士は、こういったコントラストを使うことが非常に上手かったのです。
江戸の粋(まとめ)
江戸には裏勝り、裏すぐりと呼ばれる粋があったことはご存知の方も多いと思います。
羽織りの裏地に凝るという、隠れたところ、小さなところに心を尽くし精魂を傾けることは粋であり、日本に残る美しい一面でもあると思います。
普段見えないところがちらりと覗いたとき、それに気づけるのは通であり、見えないところをわざわざひけらかすのは野暮なのです。
素晴らしい日本料理は見た目にも美しいです。しかし、それを支えるのは出汁であり、食材の下処理であり、裏ごしであるのです。ていねいな裏の仕事によって成り立っているのがわかります。
そんな周りの素晴らしい裏側に気づけるための第一歩は、やはり自分が裏側に気を遣うとこではないかと思うのです。
それは靴下にも通ずるところがあるのではないでしょうか。
ネットが発達し、SNSが流行り、表だけそれらしく取り繕ったものに溢れている現代です。
そんな中で、裏(見えないところ、細部)に心を通わせ、裏に気付く愉しみを持つことは、僕たちが失いつつある大切なものの1つのような気がしています。
表裏一体という言葉があるように、本当に素敵な表は、素敵な裏があるからこそ成り立つものですから。
なんの話だったか。
そうそう、たかが靴下の話でした。
然れど靴下、それがないと、スーツのエレガンスは成り立たないのです。
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